Mwenge Keikoのつれづれ日記

アフリカの人びとや文化の出会いを通して

アブドラー・イブラヒム、上賀茂神社でジャズピアノ・コンサート


10月3日、アブドラー・イブラヒムのソロ・ジャズピアノ・コンサートに行ってきた。彼は南アフリカケープタウン生まれで、今年で76歳になる。かつてはダラー・ブラントと名乗っていたが、イスラム教徒に改宗して、アブドラー・イブラヒムとなった。60年代に亡命し、デューク・エリントンらに才能を見いだされた。欧米での音楽活動を通して、アパルトヘイトに反対する文化活動を行なってきた。今回で三度目の来日。アブドラーは、日本で合気道を学び、南アフリカの子どもたちにそれを教えるほど、日本の武道精神が大好きな人だ。アパルトヘイトの時代が終わり、自由に帰国を許されたアブドラーが絶えず出入りしていたケープタウンにある日本料理店で、私はアブドラーにばったり出会った。とても気さくで温厚な人だ。ロンドンとニューヨークとケープタウンを拠点とし、あちこちで精力的に公演活動を続けている。
 コンサートは、夜の7時から上賀茂神社の中にある「庁ノ舎」で行なわれた。およそ400年前に建て替えられた木造建築で重要文化財だが、ここに東京からスタインウェイのピアノが運ばれてきた。木の床や天井、壁などがピアノの音色をほどよく吸収したり、反響させる。200席の座布団席と、パイプ椅子50席だけの小さなコンサートホールだが、アブドラーのお気に入りだ。チケット販売開始後、あっという間に完売になり、私はキャンセル待ちで、なんとかチケットを手に入れることができた。
 私は、南アフリカでも度々彼のコンサートに出かけているが、アブドラーは1000人以上も収容する大ホールで演奏することが多く、いつも満員の観客を魅了する。研ぎすまされた音色が心の襞にポタボタと落ちてきて、身体全体を癒してくれる。時には激しく、時にはやさしく語りかけてくる。
 京都の上賀茂神社で、初めてアブドラー・イブラヒムのソロ・ジャズピアノ・コンサートが開かれたのは、2003年10月だった。上賀茂神社の厳かな雰囲気のなかで自作のジャズピアノ曲「アフリカン・ソング」を演奏した。彼自身も感無量になり、公演後にしばらく森の中で瞑想したという。
 今回は新アルバム「SENZO」などが演奏された。SENZOはアブドラーの父親の名前で、「先祖」を連想させる。人と人がつながっていることを暗示する瞑想的な曲で構成されていた。彼の音楽の背景にはさまざまな人たちの経験や怒りや喜びなどがふあーと脳裏をよぎる。ピアノの繊細な音が講堂に座って聴いている人たちの頭の上に降り注ぐような感じで、誰もがアブドラーの世界に酔いしれた。とても心に豊かなものをプレゼントされた気分だった。演奏後に久しぶりの再会を喜んだ。  
 

  (mwenge)