Mwenge Keikoのつれづれ日記

アフリカの人びとや文化の出会いを通して

映画「かぞくのくに」を観る

 8月20日、京都シネマで上映中の「かぞくのくに」を観た。在日コリアン2世のヤン・ヨンヒ監督の実体験をもとにした作品。2012年度の第62回ベルリン映画祭フォーラム部門で国際アートシアター連盟賞受賞作。
 在日コリアンの妹リエ(安藤サクラ)は、25年ぶりに兄ソンホ(井浦新)と再会する。兄は16歳の時に帰国事業北朝鮮に渡った。日本で「在日」として差別されて暮らすよりは、「地上の楽園」とうたわれた北朝鮮に希望を持って移住した。兄ソンホは5年前に脳腫瘍を患い、3ヶ月間の許可を得て日本に治療のために帰国し、久しぶりに家族と再会した。
 ソンホの行動は国の命令によりヤン(ヤン・イクチュン、韓国の俳優)に監視される。そのためかソンホは寡黙だ。父(津嘉山正種)と母(宮崎美子)は、昔と変わらない愛で息子を迎える。母は息子の大好物であったハンバーグや、ちらし寿司やサラダをいっぱい作って、食べさせる。25年の歳月を超えて親子と兄妹の家族に戻る。
 同窓会では友人たちと出会う。友人はソンホの生活を知りたくて、「奥さんは?」「子どもは?」「仕事は?」と質問するが、ソンホは何も語らない。というよりは、語れない。北朝鮮に帰れば「総括させられ」「内容によっては、家族に危害があるからな」と友人たちは理解する。
ンホは大きな病院で診察を受けたが、三ヶ月では治療不可能で、手術ができないことが判明する。そんなときにソンホに北朝鮮から突然の帰国命令がくる。来日からわずか1週間のことだった。ソンホは理不尽な命令に従わなければならない。妹のリエにはその意味がわからないという。
ソンホは生きのびるために、考えることをやめたと吐露する。そうでなければ生きていけないのだ。そんな兄は、リエには「お前はわがままに生きていいんだよ。」「お前の好きなところに行っていいんだよ」という。ソンホは、帰国前夜にリエに考えて行動すること、どこにでも自由に行動できる状況を大事にするようにと言い渡したのだ。
 リエは、兄の監視役ヤン(ヤン・イクチュン、韓国の俳優)に「何のために付きまとっているのよ。あなたも、あなたの国も大嫌い」と怒りにも似た感情をぶつける。リエに返ってきた言葉は、「あなたの嫌いなあの国で、お兄さんも私も生きているんです。死ぬまで生きるんです」だった。
 リエは何とか兄に日本に留まってほしいと願うが、兄は黙って北朝鮮に戻っていく。リエは兄が去ったあと、無力感に襲われるが、兄の言葉を思い出し、旅行鞄を購入する。この旅行鞄は、兄と一緒に買い物に出かけたときに、兄が欲しそうにしていた鞄だが、買えなかったものだ。兄はリエに「お前、そういうのを持っていろんな国に行けよ」と言ったのだ。
 リエは、この旅行鞄を持って、どこかに向かって旅立とうとするところでこの映画は終わった。

映画「かぞくのくに」から、「家族」とは何か、国家とは何か、「生きる」ということは何かを考えさせられた。自由に考え、自由に行動できることのありがたさは言うまでもないが、「かぞく」が引き裂かれていく様や、「かぞく」は一枚岩ではないことが見えてくる。それぞれの「家族」にそれぞれの問題があるが、その問題とどう向き合いながら「生きていくか」を考えるきっかけとなる。