Mwenge Keikoのつれづれ日記

アフリカの人びとや文化の出会いを通して

映画「ふしぎな岬の物語」を観に行く

 大原の朝市でガマズミと日々草と小菊を買う。ガマズミは葉っぱをすっかり落とし、真っ赤な実をたくさんつけている。先週に買ったフウセン唐綿はまだ綺麗だったので、菊の花を足してみる。


 京都MOVIXに「ふしぎな岬の物語」を観に行く。カナダ・モントリオール世界映画祭で審査員特別大賞を受賞した映画で、吉永小百合さんがフランス語で受賞の喜びをスピーチしたという話題作。監督は成島出。森沢明夫の小説『虹の岬の喫茶店』の映画化だそうだが、吉永小百合主演・企画作というので、観に行った。
 人情味あふれる映画だと思った。「岬のカフェ」を一人で経営する柏木悦子(吉永小百合)のもとに、村の人たちがコーヒを飲みにやってくる。それぞれにさまざまな問題を抱えているが、ここに来るとほっとする時間がもてる。悦子の一日は小島に小舟で出かけ、わき水を汲みに行くことから始まる。この清水で丁寧にコーヒをいれる。「おいしくな〜れ」と呪文をかけながら。悦子は静かに常連客の人生を見つめている。悦子は、カフェの入り口にかけてある、夫が描いた海に架かる虹の絵と対話して暮らす日々だ。甥の浩司(阿部寛)を子供の頃に、引き取り育ててきた。夫は海難に会い亡くなったが、遺体は戻ってこなかった。甥は絶えず問題行動を起こすが、悦子はじっと見守りつづける。甥も悦子を守ろうとする。
 常連客の一人徳三郎(笹野高史)は、長年漁師だったが、体調を崩している。病院に行こうとはしないので、医者(米倉斉加年)は「岬のカフェ」で、強引に血液検査をする。末期ガンだった。徳三郎の娘みどり(竹内結子)は父の反対を押し切り、結婚し家を出て行ったが、離婚をしてこの岬に帰ってくる。父と娘のぎこちない和解が何ともいい。米倉斉加年さんはこの8月に亡くなられたが、この映画の中ではとてもお元気そうにみえた。
 タニさん(笑福亭鶴瓶)は、30年間不動産屋で働き、カフェの常連客。不況から会社の肩たたきにあい、大阪に転勤になる。悦子への思慕が何ともいじらしい。
 行吉先生(吉幾三)は、定年退職を目前に、職員室で夜遅くまで一人で机の整理をしている。孤独な姿が印象的だった。
 他にもさまざまな人間ドラマが織り込まれ、ほのぼのとした人情味が涙をさそう。
 悦子は、突然夜中に忍び込んだ泥棒にコーヒとトーストを振る舞い、泥棒と語り合う。また、虹を求めてやってきた父と娘の親子を励ます。娘は虹の向こうに死んだ母親がいると信じている。悦子は誰にとっても癒しの存在だが、悦子自身の孤独を埋め合わせるものがない。そんなとき、「岬のカフェ」が火事になる。悦子は炎が広がるカフェの中でじっとして動かない。甥の浩司が助け出し、悦子自身が自らの孤独を激しく吐露する。
 村の人たちの暖かい気持ちも包まれて、「岬のカフェ」が再建される。浩司とみどりの間に新しい命が授かり、新たな人生に向かう。そうした二人を悦子は静かに見守る。
 一人ひとりの人生を静かに受け入れる寛容な愛の物語だった。